
この作品、一見するとただの“OLと後輩男子のちょっとイイ話”っぽいが、読み進めていくと妙に心が温まる仕掛けが効いている。激務に疲れた先輩・冬木が、無愛想だけど実直な後輩・岩見にほぐされていく過程が、まるで低温調理された卵焼きみたいにじんわり染みる。
序盤はどこかぎこちない二人の距離感が、職場の会話や飲みの帰り道で少しずつ近づいていく。ここの描写が抜群にうまい。セリフが短くても、視線の動きや呼吸の間で「想ってるけど言えない」もどかしさが伝わってくる。黒川おとぎ氏の筆力、地味にエグい。
そして本作のタイトルにもなってる「卵焼きがおいしい店」、これがただの舞台装置かと思いきや、ふたりの関係が一気に進展するきっかけになる。甘味と出汁の効いた卵焼きのように、濃すぎず薄すぎず、絶妙な加減で心に残る夜へと展開していく。
お色気要素も忘れてない。むしろそれこそが物語にリアリティと温度を与えている。質量感ある描写もさることながら、エロスよりも「触れたくなる心」の方が強く印象に残るのは流石としか言えん。



ふ〜ん、結局おじさん、しっとり系に弱いんだ〜?
卵焼きの出汁よりおじさんの涙の方が濃そうなんだけど?チョロすぎ〜☆



誰がチョロいんじゃ……ま、否定できんけどな。
あえて一言で言うなら、「疲れた心に、じんわり効く恋と卵焼きの物語」。
黒川作品にしては珍しく(?)やさしさ多め、けどしっかり濃度もある。
一夜の出会いにロマンを感じる読者には、確実に刺さる一冊だ。
【総評】
実用性:★★★☆☆(共感性重視の物語展開)
コスパ:★★★★☆(短編ながら満足感あり)
デザイン:★★★☆☆(表紙がもう少し魅せられたら◎)
使用感:★★★★☆(読むタイミング次第で刺さり方が変わる)
雰囲気:★★★★★(静かな余韻が心地よい)



読後に卵焼きが食べたくなったら、それは良作の証拠だな。



え〜?卵焼きで満足してる場合〜?
もっとおいしい夜、探しに行こーよ、おじさ〜ん♡